「安次富（あしとみ／あじとみ）」という名字は、主に沖縄県を中心に見られる琉球由来の姓です。漢字表記に「安」「次」「富」という吉祥の字が並ぶこの名字は、古くから琉球王国の士族（しぞく）階層や農村地域に見られた家系に由来するとされています。全国的には珍しい名字ですが、沖縄では比較的知られた姓の一つであり、現在も那覇市や沖縄本島北部を中心に多く見られます。本記事では、「安次富」という名字の意味や由来、歴史、読み方、分布などについて、琉球史料や姓氏研究に基づいて詳しく解説します。
安次富さんの名字の意味について
「安次富」という名字を構成する三つの漢字には、それぞれに意味があります。まず「安」は「やすらか」「穏やか」「平和」を意味し、日本の名字においても頻出する漢字の一つです。琉球でも、王国時代の士族や村落名に「安」を冠する例は多く、安田（あだ）、安里（あさと）、安座間（あざま）など、地域や家名に多く見られます。「安」は安定や平和を象徴し、古来より吉字として重んじられてきました。
次に「次」は「つぐ」「順序」「代々続く」という意味を持ち、家の継承や血筋の連続を象徴する文字です。琉球の名字では、家系の繁栄や後継ぎの安泰を願ってこの字を用いることが多く、命名上の吉字として広く使われました。
最後の「富」は「豊かさ」「財産」「繁栄」を意味します。特に琉球王国時代には、「富」「盛」「長」「徳」などの字が士族や有力農民の名に多く使われました。これらは、生活の安定や子孫繁栄を祈る意味を持つ文字とされています。
以上の三文字を合わせた「安次富」という名字には、「安らかに代々繁栄する」「平和と豊かさが続く」といった意味が込められており、琉球文化に根差した吉祥姓（きっしょうせい）として成立したと考えられます。
安次富さんの名字の歴史と由来
「安次富」姓の発祥は、沖縄本島中部から北部にかけての地域に求められます。とくに名護市・本部町・宜野湾市などに古くから「安次富」姓の家系が確認されており、これらの地域を発祥とする可能性が高いと考えられます。
琉球王国時代には、「安次富」は士族（親雲上〈ペーチン〉・按司など）の家名としても用いられていた記録があり、同時に農村部でも有力な家系として存在していました。『琉球家譜（りゅうきゅうかふ）』や『沖縄門中家譜』などの資料にも「安次富家」の名が登場し、古くから地域社会に根を下ろした名字であることがわかります。
名字の地理的由来としては、「安次富」という地名そのものが存在していた可能性もあります。沖縄では、地名や集落名がそのまま姓となることが多く、安次富も「安次富村」や「安富」「阿富」などの古い地名に由来したものとみられます。特に名護市内には「安次富原」や「安次富山」など、類似の地名が残っており、地域密着型の地名字であることが裏付けられます。
琉球の姓の多くは、江戸時代以降の薩摩藩支配下において公式に漢字表記が整えられた経緯を持ちます。「安次富」もその際に定着した姓の一つで、当時の支配体制の中で家系ごとに漢字名が登録されました。このような背景から、「安次富」姓は江戸時代以前から存在していた地元の家名が制度的に固定されたものであり、琉球の伝統的な地名姓の一形態と考えられます。
また、沖縄戦後には、那覇市や沖縄市などの都市部へ移住した家系も多く、戦前の村落姓から都市姓として広がりを見せました。近代以降は本土への移住や就学によって、本州でも少数ながら「安次富」姓が確認されています。
安次富さんの名字の読み方
「安次富」姓の主な読み方は以下の通りです。
- あしとみ（Ashitomi）
- あじとみ（Ajitomi）
現在、最も一般的な読み方は「あしとみ」であり、沖縄県内ではこの読み方が標準的とされています。戸籍上や公的文書でも「あしとみ」と表記されることが多く、那覇市や名護市の住民に多く見られます。
一方、「あじとみ」と読む家も存在します。この読みは、琉球語の音韻変化に由来するもので、地域によって「あし」と「あじ」の区別が曖昧だったため、発音の差異から複数の読み方が生まれたとされています。特に沖縄本島北部や離島地域では「あじとみ」読みの例も確認されています。
また、稀に「やすとみ」と読む例が報告されていますが、これは本土式の漢字音に基づく読みであり、沖縄では一般的ではありません。全国的に見れば、「安次富」は沖縄発祥姓のため、「あしとみ」または「あじとみ」と読むのが正しいとされています。
安次富さんの名字の分布や人数
全国の名字分布データ（「名字由来net」「日本姓氏語源辞典」など）によると、「安次富」姓を持つ人は全国でおよそ2,000人から3,000人程度と推定されています。その大半が沖縄県に集中しており、特に那覇市、名護市、宜野湾市、浦添市などで多く見られます。
沖縄県内では比較的ポピュラーな姓で、ランキング的には上位300～400位前後に位置しています。これは沖縄特有の地名姓の中では中堅規模の分布といえます。古くからの村落や士族系の家系が多いため、地域に根ざした姓として定着していることが特徴です。
県外では、戦後の移住によって東京都・神奈川県・大阪府などにも安次富姓の家が確認されています。特に本土での沖縄出身者コミュニティの中では珍しくない名字として知られています。
また、名字に由来する地名や施設名も存在します。たとえば沖縄県名護市には「安次富交差点」や「安次富バス停」があり、地域に深く根付いた姓であることがうかがえます。
同系統の名字としては、「安富（やすとみ／あしとみ）」「安座富（あざとみ）」などがあり、いずれも琉球系の地名姓です。これらの姓に共通する「安」＋「富」の組み合わせは、豊穣や平和を象徴する命名慣習の一環とされています。
安次富さんの名字についてのまとめ
「安次富（あしとみ／あじとみ）」という名字は、沖縄を代表する琉球系の姓のひとつであり、古くから中部～北部地域にかけて分布してきました。語源的には「安（やすらぎ）」「次（つぐ）」「富（とみ）」という吉祥の意味を持ち、平和と繁栄を祈る意図で名付けられた名字と考えられます。
その由来は地名に根ざした在地姓であり、琉球王国時代には士族や有力農民の家系としても記録が残っています。現在も沖縄県内では那覇市や名護市などで多く見られ、県外にも移住した家系が存在しています。
読み方は「あしとみ」が最も一般的で、「あじとみ」と読む地域差も見られます。全国の人数は約2,000～3,000人程度と推定され、沖縄特有の姓として広く知られています。
「安次富」姓には、琉球文化の特徴である「自然・平和・豊かさ」への願いが込められており、単なる名字ではなく、土地の歴史と人々の祈りを今に伝える文化的象徴といえるでしょう。