「砦上（とりでがみ／さいじょう）」という名字は、日本国内でも非常に珍しい姓のひとつで、戦国時代の城郭や防御施設に関わる言葉を由来とする、歴史的背景のある名字です。「砦」という漢字が示すように、山城や防御拠点の近くに住んだ人々、あるいはその管理・守備に携わった家系に由来していると考えられています。この名字は地名姓であると同時に、戦乱期の社会構造や地理的特性を色濃く反映した姓でもあります。現在では全国的にも極めて少数で、主に中部地方や近畿地方において確認されるのみですが、その背景には日本の城郭文化や地域防衛の歴史が深く関わっています。本記事では、「砦上」という名字の意味や由来、歴史的背景、読み方のバリエーション、分布などを詳しく解説します。
砦上さんの名字の意味について
「砦上」という名字は、漢字の構成そのものが意味を明確に示しています。「砦（とりで）」とは、敵の侵入を防ぐために築かれた防御施設や小規模な城を意味します。古くは山頂や丘陵地帯に築かれ、木や石で囲んだ簡易的な城塞や番所のことを指しました。戦国時代には領地防衛のために各地で築かれ、のちに地名としても定着した例が多数あります。
一方、「上（うえ・かみ）」は、位置を表す言葉であり、「高い場所」「上流」「上方」を意味します。名字において「上」が付く場合、多くは地形的な高所や上位の地を指しており、「砦上」は「砦の上」「城郭の高所」「防御拠点の頂上部」といった意味合いを持つと考えられます。
したがって、「砦上」という名字は直訳すれば「砦の上に住む人」「砦の上に位置する村」などを意味する地名的表現です。古代や中世において、防御的要地に住んだ家やその周辺に形成された集落がこのように呼ばれたことが由来とされます。
また、「砦」という字が使われる名字自体が稀であり、これを含む姓（例：砦田、砦村など）はほとんど見られません。そのため、「砦上」は極めて希少であり、日本語の地名・人名の中でも特殊な由来を持つものといえます。
砦上さんの名字の歴史と由来
「砦上」という名字の起源は、戦国時代から江戸時代初期にかけての地域防衛・城郭文化と深く関わっています。特に山城や砦が数多く築かれた中部地方・近畿地方・中国地方などで、地形や地名に由来して生まれた姓のひとつと考えられます。
中世日本では、村落や山間部の高台などに「砦（とりで）」と呼ばれる防衛拠点が設けられました。これらの施設は戦国期の小規模な領主（国人）や武士団によって築かれ、家族や家臣がその近辺に住みつきました。そのような場所を指して「砦の上」と呼び、そのまま地名化・姓化したと推定されます。
地名学的には、実際に「砦上」という地名が存在する例は少ないものの、古文書や地誌には「砦之上」「トリデノウエ」などの表記が散見されます。たとえば、岐阜県や長野県などには「砦跡」「砦山」などの小字が残っており、これらの地域では防衛用の砦が山上に築かれていたことが知られています。
また、戦国時代には、砦の築造や防衛を任される武士階層が存在し、その職責をもとに姓を名乗る例が多く見られました。たとえば、「城守」「城戸」「城ノ内」などがその代表です。「砦上」も同様に、砦の管理者やその近隣の有力農民が名乗った職業的・地名的姓とみられます。
江戸時代に入ると、戦乱の終息とともに砦は廃されましたが、その地名や姓は地域の旧家として残りました。農村社会においては、かつて砦の跡地に住む家が「砦上」家と呼ばれ、明治の戸籍制度確立時に正式な姓として登録されたと推測されます。
なお、古文書上で「砦上」を名乗った人物は極めて少ないものの、類似する表記として「鳥出（とりで）」「取出（とりで）」などの姓が記録されており、これらが転訛して「砦上」となった系譜もあると考えられます。
砦上さんの名字の読み方
「砦上」という名字の読み方にはいくつかのバリエーションが存在し、地域によって異なる場合があります。以下に確認されている主な読み方を示します。
- とりでがみ（Toridegami）【最も一般的とされる読み】
- とりでうえ（Torideue）【地名由来の自然な読み】
- さいじょう（Saijō）【漢字の訓読に基づく異読】
最も一般的な読み方は「とりでがみ」です。この読み方は、「上（かみ）」を人名や姓の構成要素として読む例に従っており、「川上（かわかみ）」「山上（やまかみ）」などと同様の構造を持っています。古代から「上（かみ／がみ）」は地形の上位や本家を意味する語であり、「砦上」も「砦の上に住む家」「砦を見下ろす高所にある家」を意味する自然な命名です。
一方で、「とりでうえ」と読む例もあります。これは純粋に地名的な読みで、江戸期の村落名などで「○○上（うえ）」と読む慣習に基づくものです。
また、「さいじょう」と読む場合もあります。これは「砦」を「さい」と読む漢字音に由来する読みであり、中国地方や九州地方など、音読み系の名字に多い発音傾向です。たとえば「城上（さいじょう）」姓と混同される場合もありますが、「砦上」を「さいじょう」と読む地域系譜も一部に確認されています。
砦上さんの名字の分布や人数
名字由来netなどの統計によると、「砦上」姓の人数は全国でおよそ10人から20人程度と推定され、極めて希少な名字に分類されます。これは、日本国内に存在する約30万種の名字の中でも、最上位クラスの珍姓といえます。
主な分布地域としては、以下のような地方が挙げられます。
- 岐阜県（美濃地方を中心に確認）
- 長野県（伊那地方、木曽地方など）
- 兵庫県（播磨地方に稀に見られる）
- 広島県（地名「砦山」「砦谷」などの存在）
- 熊本県（山間部の旧家に確認例あり）
これらの地域はいずれも中世において山城や砦が多数築かれた場所であり、戦国期の城郭遺構が残る地帯と重なります。そのため、地名由来姓として「砦上」が成立したのは自然な流れです。
現代では都市部への転居などにより、東京都・大阪府などの大都市圏にも少数ながら見られますが、依然として田舎の山間地域をルーツとする姓であることに変わりはありません。
砦上さんの名字についてのまとめ
「砦上（とりでがみ／さいじょう）」という名字は、日本の戦国時代や中世の防御拠点に関する文化を色濃く映した、きわめて珍しい姓です。文字通り「砦の上」という意味を持ち、地名または地形に由来する名字として成立しました。
その発祥地は、中部地方から近畿地方の山城跡周辺にあると考えられ、戦乱期における防衛や見張りを担った家、またはその土地に住んだ人々の名が後に姓として定着したと推測されます。読み方は「とりでがみ」が一般的で、「とりでうえ」や「さいじょう」と読む地域も存在します。
全国的に見ても非常に稀な名字で、確認される人数は20人前後とごくわずかです。しかし、その一字一字には日本の中世史と地名文化が凝縮されており、名字としての由緒と独自性は非常に高いといえます。
「砦上」という名字は、まさに日本の城郭文化や地理的歴史を今に伝える貴重な姓であり、その存在は日本語と土地の結びつきの深さを改めて感じさせるものです。