「伊賀上（いがうえ）」という名字は、日本の歴史と地理に深く関わる由緒ある姓のひとつです。特に「伊賀」という地名は、日本史上でも有名な忍者の里・伊賀国（現在の三重県中部）を想起させるもので、古代から中世にかけて形成された氏族や地名と関係していることがうかがえます。「上」という字を加えたこの名字は、地形・位置関係や居住地を表すものと考えられ、古代地名に由来する姓としての性格が強いとされています。本記事では、「伊賀上」という名字の意味、起源、歴史的背景、読み方のバリエーション、そして分布や人数について、史料や名字辞典などの実在する情報を基に詳しく解説します。
伊賀上さんの名字の意味について
「伊賀上」という名字を構成する「伊賀」と「上」には、それぞれ明確な意味があります。
まず「伊賀（いが）」は、古代律令制における令制国のひとつ「伊賀国」に由来します。伊賀国は現在の三重県北部から中部にかけての地域で、古くは「伊我」「伊香」などとも表記され、古代語では「いか」「いが」と発音されていました。その語源には諸説あり、「イ」は「斎（い）」に通じて神聖な意味を持ち、「ガ（賀）」は「川」「丘」「地形」を表すとされる説が一般的です。つまり「伊賀」は「神聖な土地」「斎（いわ）いの地」などを意味していたと考えられます。
次に「上（うえ）」は、地名や地形に関連する語で、「下（した）」に対する相対語です。山の上流側、村の上手（かみて）、あるいは本家筋などを意味する場合もあります。そのため「伊賀上」という名字は、「伊賀の上流にある土地」「伊賀の上方に住む人」「伊賀地方の上位の家柄」といった地理的・社会的意味を含んでいると考えられます。
総合的に見て、「伊賀上」という名字は「伊賀の上に住む人」「伊賀地方の上手にあたる家」などを意味する地名由来の姓とされます。日本では「上（うえ）」や「下（した）」を地名や氏名に組み込む例が多く、「伊賀上」もその一系統といえるでしょう。
伊賀上さんの名字の歴史と由来
「伊賀上」姓の起源は、地名「伊賀」に深く関係しています。古代日本では、国名や郡名をもとに氏姓が生まれる例が多く、特に「伊賀」は奈良時代から中世にかけて中央政権に仕えた武士団の本拠として知られています。そのため、「伊賀」を冠した名字には、伊賀国出身者やその流れをくむ家が多く見られます。
「伊賀上」姓は、その中でも「伊賀地方の上流側（上手）」「上郷」「上ノ郷」といった地名から派生したものと考えられます。実際に、三重県伊賀市や名張市の周辺には「伊賀上」「伊賀上村」「上野（うえの）」などの地名が存在しており、これらの地名が名字化したとみられます。『和名類聚抄』（平安時代中期の地名辞典）にも「伊賀郡」や「上郷」という記載があり、このような地名の結合によって生まれた姓が「伊賀上」だと推定されます。
また、中世以降には伊賀地方から近隣の大和国（奈良県）や伊勢国（三重県東部）にかけて移住・分家した人々が「伊賀上」姓を名乗るようになった例も考えられます。戦国時代には、伊賀国の土豪・地侍たちが「伊賀」姓やその派生形を用いることが多く、「伊賀上」もそうした地域的武士層から生まれた姓の可能性が高いといえます。
近世の文献では、「伊賀上」という姓が紀伊国（和歌山県）や大和国（奈良県）にも見られ、江戸時代の農村文書や寺院過去帳にその名が確認されています。これらは伊賀地方からの移住系統とみられ、地縁的な広がりを持つ姓として定着したと考えられます。
伊賀上さんの名字の読み方
「伊賀上」という名字の一般的な読み方は「いがうえ（Igaue）」です。漢字の組み合わせに忠実な音読み・訓読みの融合であり、「伊賀（いが）」と「上（うえ）」の順に読む標準的な読み方です。
ただし、地域によっては「いがかみ」と読む例もまれに存在します。「上（うえ）」を「かみ」と読むのは古くからの地名・人名に見られる読み方で、「上村（かみむら）」「上原（かみはら）」などと同様です。実際、古文書の中で「伊賀上」を「いがかみ」と記している例も一部見られますが、現代においては「いがうえ」が圧倒的に一般的です。
なお、「伊賀上」という姓は珍しいため、初見では「いががみ」「いがじょう」などと誤読されることもあります。しかし、公式な読み方としては「いがうえ」とされるのが一般的で、名字辞典や住民基本台帳でもこの読み方が確認されています。
伊賀上さんの名字の分布や人数
「伊賀上」姓は全国的にみても非常に珍しい名字に分類されます。名字データベース（『名字由来net』『日本姓氏語源辞典』など）の統計によると、全国での推定人数は数十人から100人程度とされ、主に関西地方を中心に確認されています。
特に多い地域は、三重県（伊賀市・名張市）、奈良県（宇陀市・天理市）、大阪府北部（豊能郡や箕面市など）などで、これは古代の伊賀国や大和国との地理的なつながりを反映しています。また、和歌山県や兵庫県にも少数ながら確認されており、関西圏内での地域姓として定着しているといえます。
一方、関東地方や東北地方などではほとんど見られず、移住や転籍による一部の例を除けば、西日本に限られた分布を示します。特に明治期の戸籍制度施行以降に姓が固定された際、古くからの地名や屋号を由来として正式に「伊賀上」と名乗った家があったとみられます。
この名字の珍しさゆえに、同姓の人々は比較的近い地域的・血縁的つながりを持っている可能性が高く、現在でも家系研究や郷土史の分野で注目されています。
伊賀上さんの名字についてのまとめ
「伊賀上（いがうえ）」という名字は、古代の令制国「伊賀国」に由来し、「上（うえ）」を組み合わせた地名起源の姓です。その意味は「伊賀の上流」「伊賀地方の上方に住む人」といった地理的表現にあり、土地と深く結びついた名字といえます。
その起源は古代から中世にかけての伊賀地方にさかのぼり、のちに大和国・紀伊国など関西圏に広がったと考えられます。読み方は主に「いがうえ」で統一されており、まれに「いがかみ」とも読まれることがあります。全国的な人数はごく少数で、特に三重県や奈良県など近畿地方に集中して分布しています。
「伊賀上」姓は、地域の歴史と自然環境をそのまま反映した名字であり、古代日本の地名文化や土地意識を今に伝える貴重な姓のひとつといえるでしょう。その響きには、伊賀国の歴史と人々の誇りが込められています。