「井頭（いがしら）」という名字は、日本各地に見られる比較的古い系統の姓のひとつであり、その語構成からも自然地形や生活に根ざした由来をもつと考えられています。「井」とは井戸や水の湧く場所を意味し、「頭」はその場所の「上流」「上位」「源」などを表す語であり、「井頭」は「井戸の源」あるいは「井戸のある土地の上流部」に由来する姓とされます。古代から中世にかけて日本各地で井戸や湧水は集落形成の中心であったため、地名としても姓としても広く使われてきました。本記事では、名字「井頭」の意味、歴史、由来、読み方、分布、そして現代における位置づけについて詳しく解説します。
井頭さんの名字の意味について
「井頭」という名字を構成する「井」と「頭」という漢字はいずれも地形や位置を示す語です。「井」は古くから「井戸」「水源」「湧き水」を意味し、人々の生活に欠かせない清水のある場所を表します。一方、「頭（がしら）」は「先端」「上流」「頂き」「かしら」といった意味を持ち、ある物や地形の最上部を指す言葉です。
このことから、「井頭」という名字の語義は「井戸の上」「井戸の源」「水源地」「湧き水のある場所の上流」といった意味を持つと考えられます。実際、日本の古い地名には「井頭」「井ノ頭」「井ヶ頭」といったものが複数存在し、それらはいずれも湧水や地下水が豊富な土地に由来しています。したがって、「井頭」という姓は、地形・水源・居住地の特徴を表す地名から生まれた姓であると考えられます。
また、同義語として「井ノ頭（いのがしら）」という地名・名字も存在します。東京都三鷹市・武蔵野市にある「井の頭公園（いのかしらこうえん）」も、古くは「井頭」と書かれていた記録があり、「湧水の源」「井戸のはじまり」を意味していました。このように、「井頭」は日本人の生活と深く関わる“水”を象徴する名字です。
井頭さんの名字の歴史と由来
「井頭」姓の起源は、古代から中世にかけての地名姓（じみょうせい）に由来すると考えられています。地名姓とは、その人が住んでいた土地や所有していた領地の地名を姓としたもので、貴族や武士階級のみならず、農村の有力者や庄屋層の間でも広く見られました。
「井頭」はその地形的特徴から、全国の湧水地帯や水源近くに地名として存在していたことが確認されています。例えば、奈良県、滋賀県、岐阜県、富山県などでは、古くから「井頭」あるいは「井ノ頭」という地名が残されています。これらの地域では、村落の中心に湧水地があり、農業や生活用水の基点として重要な場所とされていました。
また、武家の系譜としては、戦国時代から江戸時代初期にかけて「井頭」を名乗った一族が地方文書に見られます。特に富山県や新潟県の越中・越後地方には「井頭氏」の名が記録され、地侍（じざむらい）や庄屋として活動していたと伝えられています。これらの家はおそらく地域の湧水地や用水路の管理者として名を馳せ、土地の呼称がそのまま姓として定着したものと思われます。
江戸時代には、庶民も名字を使用する機会が増え、「井頭」姓も各地で確認されるようになります。特に北関東や中部地方の農村では、地名・屋号由来の姓として「井頭」が登録されており、明治期の「平民苗字必称義務令」（1875年）によって正式に戸籍上の姓として定着しました。
さらに、同音異字の姓として「井ノ頭（いのがしら）」「井ヶ頭（いがしら）」などもあり、これらは地域差による表記ゆれと見られます。いずれも水源地に関わる地名から派生した共通の語源を持つ名字です。
井頭さんの名字の読み方
「井頭」という名字の主な読み方は「いがしら（Igashira）」です。これは日本全国で共通して用いられており、他の読み方はほとんど確認されていません。
ただし、地域によっては「いのがしら（Inogashira）」や「いがとう（Igatou）」といった異読も一部の古文書に見られますが、これらは「井ノ頭」「井ヶ頭」と表記されることが多く、「井頭」とは別系統または同源異表記とされています。
「いがしら」という読み方は、語感として古くから地名や人名に用いられてきました。たとえば、「井ノ頭公園」の「いのかしら」や、「井ヶ頭」姓などがそれにあたります。これらの語に共通するのは、「井戸の頭」「水のはじまり」「源泉」といった意味であり、生活や農業の要となる水の象徴です。
名字としての「いがしら」は、九州地方にも分布しており、熊本県や宮崎県などでは「伊賀代」「井頭」を「いがしら」と読む家もあります。これは地名や方言的音便（おんびん）による変化の結果と考えられます。
井頭さんの名字の分布や人数
「井頭」姓は全国的には珍しい部類に入りますが、特定の地域に集中的な分布が見られます。名字データベース（『名字由来net』『日本姓氏語源辞典』など）によると、現在の「井頭」姓の人数は全国でおよそ600人から800人程度と推定されています。
最も多いのは関西地方から北陸地方にかけてで、特に富山県、石川県、福井県、滋賀県などで多く見られます。これらの地域は古くから水源や用水路が発達しており、「井頭」姓の地名的背景とよく一致します。
また、関東地方では栃木県・群馬県・茨城県に分布があり、特に栃木県真岡市には「井頭公園」など、名字と関連する地名が残っています。この地は江戸時代に開拓が進められた新田地帯であり、井戸や溜池を整備した開発者たちの名として「井頭」姓が広まったとされています。
一方、九州地方にも少数ながら「井頭」姓が確認されており、熊本県・宮崎県を中心に古くから同姓が存在しています。これらは江戸期の移住や分家、または旧地名由来による独立発生と考えられます。
全体としては、北陸・関東・九州の三地域に点在し、地理的には湧水や河川源流が豊かな地域に集中していることが特徴です。
井頭さんの名字についてのまとめ
「井頭（いがしら）」という名字は、「井戸」「水源」を意味する「井」と、「上流」「源」「はじまり」を示す「頭」から成り、「水の源」「井戸の始まり」といった自然地形に由来する姓です。古代から人々の生活に欠かせない湧水地や井戸の近くに生まれた地名が、そのまま名字として伝えられたものと考えられます。
その起源は奈良・北陸・関東の湧水地帯にあり、江戸時代以降、庶民の姓としても広まりました。読み方は「いがしら」が一般的で、全国に数百人程度が分布しています。
「井頭」姓は、水と人との結びつきを象徴する名字であり、日本文化の中でも自然と共に生きた人々の知恵と暮らしを今に伝える存在です。水の源にちなむこの名字には、地域の歴史と生活文化が凝縮されているといえるでしょう。