「飯盛（いさかい）」という名字は、日本の中でも比較的珍しい姓のひとつで、古代から中世にかけての地名や自然地形に由来していると考えられます。「飯盛山（いいもりやま）」などの地名でも知られるように、「飯盛」という言葉は日本各地に古くから存在しており、食物（米）を象徴する「飯」と、盛り上がった地形を表す「盛」の組み合わせから成る地名姓です。本記事では、「飯盛」という名字の意味、由来、歴史、読み方、全国分布について、実在する地名・史料・姓氏研究の情報をもとに解説していきます。
飯盛さんの名字の意味について
「飯盛（いさかい）」という名字は、「飯」と「盛」という二つの漢字から成り立っています。この組み合わせは古代日本の地名や人名においてしばしば見られる構成であり、それぞれの字には以下のような意味があります。
まず、「飯」は「めし」「いひ」と読み、古代日本語で「炊いた米」「食物」を意味します。漢字の原義は「食べる」「米を炊く」という行為そのものであり、日本においては五穀豊穣の象徴として非常に神聖な意味を持つ言葉でした。特に「飯」は古代の祭祀や収穫儀礼において「神に供える食物」としても使われ、人々の生活と信仰の中心にありました。
次に、「盛」は「さかる」「もる」「さかん」と読み、「高く積み上がる」「栄える」「盛り上がった形状」などを意味します。地名や名字に使われる場合は、丘陵や高台を指すことが多く、また「繁栄」や「隆盛」を象徴する縁起の良い漢字でもあります。
これらを組み合わせた「飯盛」は、「米を盛る」「豊穣が盛んな地」「食物が満ちる場所」などの意味を持ち、非常に吉祥性の高い文字構成の名字です。また、古代・中世においては「飯盛山」「飯盛村」「飯盛郷」といった地名が各地に存在し、これらの地名から名字が生まれたと考えられます。
したがって、「飯盛」という名字は、農耕文化が栄えた地域、特に水田の豊かな平地や丘陵地帯に住む人々が、土地の名を姓として名乗ったことに由来すると考えられます。
飯盛さんの名字の歴史と由来
「飯盛」姓の起源は、古代から中世にかけての地名に由来しているとされます。実際、日本各地には「飯盛」と呼ばれる地名が点在しており、それぞれが名字の発祥地であったと考えられています。
代表的な地名として、以下の例が挙げられます。
- 大阪府大東市の「飯盛山（いいもりやま）」
- 長崎県諫早市の「飯盛町」
- 福岡県嘉麻市の「飯盛（いいもり）」
- 熊本県菊池市の「飯盛（いいもり）」
これらの地名はいずれも古くから「豊穣」「高地」「信仰の場」といった意味を持ち、山や丘陵地に由来することが多いです。たとえば大阪の飯盛山は、戦国時代に楠木正行（まさつら）が戦死した場所としても知られ、古代から中世にかけて聖域として信仰の対象になっていました。
また、九州地方の「飯盛」は、古代の郡制の中で形成された郷（ごう）や里（さと）に由来しており、古代氏族がその土地の名を冠して名乗ったと考えられています。とくに肥前国（現在の長崎県）では「飯盛氏」という在地豪族の記録が残っており、これが現代の「飯盛」姓の一系統につながっている可能性があります。
名字としての「飯盛」は、平安時代末期から鎌倉時代にかけて地名姓として成立したとみられます。当時の豪族や名主が土地の名前をもとに姓を名乗ることは一般的で、「飯盛」姓もその一例です。近世以降は、地元の村名を由来とする庶民の姓としても広がりました。
なお、読み方が「いさかい」となる由来については、地名の転訛（てんか：音が変化すること）によるものと考えられます。古くは「いひさかい」「いひもり」などと呼ばれた地名が変化し、「いさかい」という発音で定着した可能性があります。実際、全国の地名には「飯坂（いいざか）」「井坂（いさか）」など、音の変化が類似する例が多数存在しています。
飯盛さんの名字の読み方（複数の読み方がある場合）
「飯盛」という名字には複数の読み方が存在します。代表的なものを以下に示します。
- いさかい（希少だが確認される読み）
- いいもり（地名・姓の最も一般的な読み）
- いいさかい（古い発音形の名残）
現在、「飯盛」を「いいもり」と読む家系が全国的には圧倒的に多く、地名や寺社名などでも「いいもり」の読みが標準化されています。しかし、一部地域では「いさかい」と読む珍しい家系が確認されています。
「いさかい」という読み方は、主に西日本の一部地域に伝わるもので、古い地名「飯境（いさかい）」や「飯坂（いさか）」と混在して使われていた形跡があることから、地域的な音変化によって定着したと考えられます。特に、奈良県・和歌山県・大阪府南部など、古代に地名の転訛が多く見られた地域では、「飯盛」を「いさかい」と読む例が散見されます。
また、「飯盛」は音読みでは「はんせい」「はんじょう」とも読まれますが、これらは人名や寺号（例：「飯盛寺」など）に用いられる特殊な読みであり、名字としてはほとんど使われません。
飯盛さんの名字の分布や人数
「飯盛」姓は、全国的に見ても珍しい名字のひとつに数えられます。名字由来netや日本姓氏語源辞典などによると、全国での人数はおよそ300人から500人程度と推定されています。
主な分布地域は以下の通りです。
- 長崎県（諫早市・大村市）
- 福岡県（嘉麻市・直方市）
- 熊本県（菊池市・山鹿市）
- 大阪府（大東市・東大阪市）
- 奈良県（生駒郡・香芝市）
特に長崎県諫早市の「飯盛町（いいもりちょう）」は、「飯盛」姓の発祥地の一つとされ、現在でも多くの「飯盛」姓の方が居住しています。地名としての「飯盛」は中世から続くもので、郷士層や名主などの有力者が多かった地域です。
一方、大阪府大東市の「飯盛山」周辺では、「飯盛」姓が古くから確認されており、同地域に根差した在地姓であると考えられます。これらの地域はいずれも古代の開墾地や信仰の場であり、地名姓としての成立にふさわしい土地柄です。
現代では、関西地方や九州地方を中心に少数ながら確認され、首都圏（東京都・神奈川県）にも移住による分布が見られますが、依然として全国的には希少姓です。
飯盛さんの名字についてのまとめ
「飯盛（いさかい）」という名字は、日本の古代地名や自然信仰に由来する地名姓のひとつであり、「飯（めし）」と「盛（もり）」という吉祥的な漢字を組み合わせた意味深い名字です。その語源には、「食物を盛る」「豊穣の地」「山や丘の名」などが関わっており、農耕文化と信仰の歴史が息づいています。
読み方は一般的には「いいもり」ですが、一部地域では「いさかい」とも読まれ、古い地名の転訛（音変化）に由来するものと考えられます。全国的には300〜500人ほどの希少姓であり、特に長崎県や大阪府での分布が多く確認されています。
「飯盛」姓は、古代の豊穣信仰や地形名に基づく日本らしい名字の典型であり、地域の歴史や自然と密接に結びついた姓のひとつといえるでしょう。古代から続く日本人の「自然と共に生きる」精神を今に伝える名字として、その存在は極めて貴重です。