北海道の中部に位置する美唄市(びばいし)は、炭鉱の町として発展した歴史を持ち、その食文化にも独自の郷土料理が多く残されています。その中でも「美唄のとりめし」は、地域の歴史と生活を象徴する伝統的な鶏料理です。かつて炭鉱で働く人々の弁当として親しまれ、現在では美唄市を代表するソウルフードとして広く知られています。旨味の詰まった鶏肉と甘辛いタレが染みたご飯は、家庭料理としても人気が高く、地元では駅弁やイベントの名物としても親しまれています。本記事では、美唄のとりめしの歴史や文化、特徴、そしてその作り方について詳しく紹介します。
美唄のとりめしについて
「美唄のとりめし」は、鶏肉を醤油や砂糖で甘辛く煮込み、その煮汁をご飯に混ぜ合わせた北海道美唄市の郷土料理です。炭鉱の全盛期であった昭和初期から中期にかけて、炭鉱夫たちの弁当として親しまれてきました。手軽に作れて栄養価も高く、冷めても美味しいことから、家庭料理や行事食として広く定着しました。
使用される鶏肉は、内臓や皮、筋などを無駄にせず余すところなく使うのが特徴です。これは、美唄市が「美唄焼き鳥」で知られるように、鶏を丸ごと調理する文化が根付いているためです。とりめしにもその精神が受け継がれており、鶏肉の旨味とコクがご飯全体に染み渡る奥深い味わいが魅力です。
現在では、美唄市内の飲食店や道の駅などで販売されており、北海道各地の物産展や駅弁大会でも高い人気を誇っています。特に「美唄名物 とりめし弁当」は、地元企業によって商品化され、美唄の郷土料理として全国に知られる存在となっています。
美唄のとりめしの歴史と文化
美唄のとりめしの起源は、昭和初期の炭鉱時代にまでさかのぼります。当時、美唄市は北海道有数の炭鉱地帯で、多くの炭鉱夫やその家族が暮らしていました。炭鉱での仕事は長時間かつ重労働であり、弁当として持参できる手軽で栄養価の高い食事が求められていました。その中で、家庭で簡単に作れて冷めても美味しい「とりめし」が生まれたとされています。
当初は、鶏のもも肉や胸肉を使うのではなく、内臓や皮、砂肝など、安価で手に入りやすい部位を活用していました。これにより、鶏を余すことなく使い切る知恵と工夫が生まれ、結果的に豊かな旨味を持つ料理として完成しました。この「無駄にしない精神」は、美唄焼き鳥やとりめしといった美唄の鶏料理文化の根幹をなしています。
戦後になると、炭鉱が閉山してもなお家庭料理として受け継がれ、運動会やお祭り、法要など地域の行事の定番メニューとなりました。また、昭和40年代には「とりめし弁当」として商品化され、美唄駅で販売されるようになります。これが評判を呼び、北海道の駅弁文化の中でも人気の一品となりました。
現在では、炭鉱の記憶とともに「美唄とりめし」は地域のアイデンティティとして愛され続けており、地元の学校給食や地域イベントにも登場します。郷土の味としての価値が見直され、北海道内外でその魅力が広がっています。
美唄のとりめしの食材、特徴と主な伝承地域
美唄のとりめしの主な材料は、鶏肉と米、そして調味料のシンプルな構成です。しかしそのシンプルさの中に、深い旨味と郷土の歴史が詰まっています。
- 鶏肉:皮、砂肝、レバー、ハツ、もも肉など。内臓を含めたさまざまな部位を使う。
- 米:北海道産のうるち米(代表的な品種は「ななつぼし」や「ゆめぴりか」)。
- 調味料:醤油、砂糖、酒、みりん、しょうが。
- 付け合わせ(好みで):ごぼう、人参、しいたけなど。
最大の特徴は、鶏の旨味を最大限に引き出した煮汁をご飯にしみこませる点にあります。炊き込みご飯のように一緒に炊くのではなく、煮込んだ鶏肉のタレをご飯に混ぜるスタイルが多く、これによって照りと香ばしさが際立ちます。また、具材を細かく刻むことで食べやすく、弁当やおにぎりにも適した形になります。
美唄市を中心とした空知地方(岩見沢市、三笠市など)に伝承されており、これらの地域ではとりめしが家庭料理として今も頻繁に作られています。また、美唄焼き鳥の発祥地として知られる「美唄焼鳥・とりめしの会」など地元団体が、郷土料理の継承とPR活動を積極的に行っており、北海道全体に文化が広まりつつあります。
美唄のとりめしの作り方
以下は家庭でも作れる基本的な美唄のとりめしの作り方です。
- 鶏肉(もも肉、皮、内臓など)を一口大に切り、熱湯でさっと下茹でする。
- 鍋に醤油・砂糖・酒・みりんを入れて火にかけ、鶏肉を加えて中火で煮る。
- アクを取りながら、弱火でじっくりと30分ほど煮込み、照りが出るまで煮詰める。
- 煮汁をご飯に混ぜ、全体に味をなじませる。鶏肉も一緒に混ぜ合わせる。
- 好みにより、ごぼうや人参などを細切りにして加えると彩りが良くなる。
この料理のコツは、鶏肉を煮詰める際に焦がさないよう火加減を調整し、煮汁に十分なコクを出すことです。味付けは各家庭によって異なり、やや甘めに仕上げる家もあれば、しっかりとした醤油味にする地域もあります。冷めても美味しく、おにぎりや弁当にしても風味が損なわれないのが美唄とりめしの大きな魅力です。
美唄のとりめしについてのまとめ
美唄のとりめしは、北海道の炭鉱文化の中で生まれ、地域の人々に長く愛され続けてきた郷土料理です。質素な食材を最大限に生かす知恵と工夫が詰まっており、鶏肉の旨味と甘辛いタレの調和がどこか懐かしさを感じさせます。現在では、美唄焼き鳥と並ぶ「美唄の味」として広く知られ、北海道各地のイベントや物産展でも人気を集めています。
また、地元では「炭鉱のまち・美唄」の歴史を語り継ぐ料理として、次世代へと受け継がれています。家庭で作る人々も多く、地域に根付いた生活の味として今も息づいています。素朴ながらも味わい深い美唄のとりめしは、北海道の食文化の豊かさを伝える代表的な一品といえるでしょう。
