「五辻（いつつじ）」という名字は、日本の古い歴史や地名、貴族文化に深く関わる由緒ある姓のひとつです。その名は京都を中心に広く知られ、特に平安貴族の時代から続く由緒ある家名として文献に登場します。「辻」は「道の交わるところ」を意味し、「五辻」は「五つの道が交わる場所」という意味を持つことから、地形や都市構造に由来する名字であると考えられています。本記事では、「五辻」という名字の意味、歴史的背景、発祥地、読み方のバリエーション、分布と人数について、実際の資料をもとに詳しく解説します。
五辻さんの名字の意味について
「五辻」という名字は、二つの漢字「五」と「辻」から構成されており、どちらの文字も地名や道路、区画に関係する意味を持っています。
まず「五」は、単に「5」という数を意味するだけでなく、日本古来の数詞には象徴的な意味合いがあり、「完全」「調和」「中心」といった概念を表すこともあります。また、地名として「五」は、地域の区画を表すために使われることが多く、たとえば「五条」「五反田」なども同様の由来を持ちます。
次に「辻（つじ）」は、「道が交わる場所」や「交差点」「分岐点」を意味する言葉です。古代から中世にかけての日本では、辻は人や物資が行き交う生活の要所であり、村や町の中心に位置する重要な場所でした。また、「辻」は人々が立ち話をする場、祭礼を行う場、さらには地蔵や道祖神を祀る信仰の場としても知られています。
これらを合わせた「五辻」は、「五つの道が交わる場所」や「五方向に分岐する辻」を意味し、地形的特徴や町の構造から生まれた名字だと考えられます。京都市上京区には現在も「五辻通（いつつじどおり）」という通り名が残っており、この地名が姓の由来とされることが最も有力です。
したがって、「五辻」という名字は単に地名由来の姓というだけでなく、古代・中世の京都の都市計画や貴族文化と深い関係を持つ象徴的な名字といえるでしょう。
五辻さんの名字の歴史と由来
「五辻」姓の起源は、京都を中心とする貴族階級の家柄に由来します。平安時代の記録にすでに「五辻殿（いつつじどの）」という邸宅名が登場し、これは藤原氏の流れをくむ公家の屋敷名であると伝えられています。京都御所の北西に位置する「五辻通」は、この五辻家の邸宅にちなんで名付けられたとされます。
また、鎌倉時代から室町時代にかけて、「五辻家」は堂上公家（どうじょうくげ）の一つとして記録に見られます。公家としての五辻家は藤原北家閑院流に属し、代々「五辻中納言」や「五辻宮」などの称号を持ち、朝廷に仕えたといわれています。これは、藤原氏の分流が居住地の名を姓とした典型的な例です。
江戸時代には、京都の上京区に「五辻町」や「五辻通」が正式な地名として存在しており、この地に住む庶民層も「五辻」を姓として名乗るようになったと考えられます。つまり、上級貴族に由来する家系と、その地に住んでいた町人層が同じ姓を持つようになったという二重の発祥構造が見られます。
また、地方に移住した五辻姓の家系の中には、京都から九州や関東へ移った者もあり、近世以降は商人や医師、学者など知的職業に就く家系も多く見られました。特に熊本県や福岡県には、明治期に京都から移り住んだ「五辻」家の記録が残っています。
なお、現在でも公家の五辻家は華族制度廃止後もその系譜が続いており、日本の貴族史を語る上で欠かせない家柄の一つとされています。
五辻さんの名字の読み方
「五辻」という名字の主な読み方は「いつつじ」です。これは古代日本語の数詞「いつ（五つ）」と、「辻（つじ）」を組み合わせた純和語的な読み方であり、歴史的にもこの読みが最も一般的です。
確認されている読み方には以下のものがあります。
- いつつじ（標準的な読み方・全国的に通用）
- ごつじ（音読み系の読み方・稀に見られる）
- いづつじ（古風な仮名遣いによる発音・古文書に見られる）
公的な戸籍上は「いつつじ」と記載されることがほとんどですが、地名や屋号では「ごつじ」と読む地域もわずかに存在します。ただし、「五辻通」などの京都地名は「いつつじどおり」と読むのが正式な表記です。
「五辻」という読みは日本語の五音構成に基づいた柔らかく調和的な響きを持ち、古典文学にも頻出する語感であることから、名字としても美しく上品な印象を与えます。
五辻さんの名字の分布や人数
「五辻」姓は全国的に見ても非常に珍しい名字に分類されます。名字由来netなどの統計によると、日本全国で「五辻」姓を名乗る人はおよそ200人から300人前後と推定されています。
分布を見ると、最も多いのは京都府で、特に上京区や中京区など古くからの市街地に多くの五辻姓が確認されています。これは、五辻家がかつてこの地域に屋敷を構え、後にその周辺に住んだ庶民層にも姓が広まったためと考えられます。
続いて多いのは大阪府・兵庫県・奈良県などの近畿地方で、いずれも京都文化圏に属する地域です。また、明治時代以降の移住により、東京や神奈川県にも五辻姓の家系が見られます。
分布の特徴を地域別にまとめると以下の通りです。
- 京都府（上京区・中京区）
- 大阪府（高槻市・豊中市など）
- 兵庫県（神戸市・西宮市など）
- 奈良県（奈良市周辺）
- 東京都（世田谷区・杉並区など）
特に京都市上京区の「五辻通」は、今でも町名として残っており、現地では「五辻町」という地名も存在します。これが発祥の地であることから、京都府を中心にした関西地方に五辻姓が集中しているのは自然な流れといえるでしょう。
なお、近年では全国に数少ない五辻姓の家系が地方に点在しており、名字研究の分野でも希少姓の一つとして注目されています。
五辻さんの名字についてのまとめ
「五辻（いつつじ）」という名字は、日本の地名や文化史の中でも特に京都と深い関わりを持つ、由緒ある姓です。その意味は「五つの道が交わる辻」、すなわち「交通と交流の要所」を表し、古代の都市計画や社会構造を反映しています。
発祥地は京都であり、平安時代には藤原北家の流れをくむ堂上公家「五辻家」が存在していました。この五辻家の屋敷があった場所が「五辻通」と呼ばれるようになり、そこから地名姓として庶民の間にも広がったとされています。江戸時代には商家や町人の間でも「五辻」姓を名乗る家が現れ、今日まで受け継がれています。
読み方は「いつつじ」が一般的で、全国におよそ200〜300人ほどしかいない珍しい名字です。特に京都府を中心に分布しており、同地の歴史や文化と切っても切り離せない姓といえます。
「五辻」は、古都・京都の町並みや歴史を今に伝える象徴的な名字であり、その響きには千年の都の気品と風雅が宿っています。名字としての由来だけでなく、日本の文化そのものを映す貴重な存在といえるでしょう。