犬養（いぬかい）という名字は、日本の古代職能や神話・伝承に深く結びついた由緒ある姓として知られています。古代氏族の名として文献に登場するほか、歴史上の著名人の姓でもあるため、日本の名字の中でも特に由来が明確な部類に属します。本記事では、犬養姓の意味、成立の背景、歴史、読み方、分布について、信頼できる史料に基づき詳しく解説します。
犬養さんの名字の意味について
犬養という名字は「犬」と「養」の二文字で成り立っており、それぞれに古代の職能や文化を反映した意味があります。
【1.「犬」＝狩猟・警護に欠かせない動物】
「犬」は狩猟社会において不可欠な動物であり、獲物を追跡し、集落の安全を守る役割を果たしてきました。古代の職能集団には犬を飼育・訓練する人々が存在し、彼らに由来する名前が残ったとされています。
【2.「養」＝飼育・世話・育成を表す文字】
「養」は「育てる」「養う」という意味を持つ漢字で、動物の飼育に関する職能を示す名字で多く用いられます。
【3. 犬養＝犬を育て、狩猟・防衛に関わった職能の氏】
犬養という名字は「犬を飼育・管理する役目を担った家」を表す職業姓として成立したと考えられています。この構造は、馬を扱う「馬養（うまかい）」などとも共通しています。
犬養さんの名字の歴史と由来
犬養姓は、その歴史が非常に古く、文献上も早くから確認されています。
【1. 古代氏族「犬養氏」に由来】
『日本書紀』や『古事記』には「犬養氏」の名が登場し、天皇に仕えた職能民としての役割が記されています。この犬養氏が現在の犬養姓の祖とされています。
【2. 職能姓としての成立】
古代日本では、特定の職務を世襲する集団が姓としてその役割を表す名称を名乗りました。犬養氏は宮中において犬を用いた警護や狩猟に関わったとされ、職能を示す氏族として名字が形成されました。
【3. 奈良・平安期に多く記録される】
奈良時代の正史には犬養宿禰（いぬかいのすくね）などの人物が登場し、中央政権で活躍しました。平安期には武士団の構成員として地方へ広がる例も見られます。
【4. 中世以降は庶民にも広がる】
中世〜近世にかけて名字が一般化するにつれ、犬養姓は旧氏族の子孫だけでなく、犬にまつわる地名を名乗った家や、犬を飼育する職業に従事した人々にも広がったと考えられています。
犬養さんの名字の読み方
犬養姓の読み方にはいくつかのバリエーションが確認されています。
・いぬかい（最も一般的）
・いぬがい
地域の慣習によって「かい」と読む家が多いものの、「がい」と濁る例もあります。古代の氏族名としては「いぬかい」が標準的な読みとされています。
犬養さんの名字の分布や人数
犬養姓は歴史的背景から全国に広がっていますが、特に集中している地域がいくつか存在します。
【1. 岡山県を中心に分布】
犬養姓は岡山県で比較的多く確認されます。これは、犬養毅（いぬかいつよし）をはじめとする著名な政治家を輩出した地域であり、古代氏族の居住地が影響したとみられます。
【2. 中国地方・近畿地方にも多い】
岡山に加え、広島・兵庫・大阪などの西日本にも犬養姓の家が見られます。
【3. 全国人数は数千人規模】
犬養姓の全国人数はおよそ4,000人前後と推定されており、珍しい名字というよりは、古い由緒を持つ中規模の姓といえます。
【4. 古代氏族の末裔を名乗る家も存在】
地域によっては「犬養氏の末裔」を伝える家系が残っており、歴史・系譜を重視して名字を継承している例もあります。
犬養さんの名字についてのまとめ
犬養（いぬかい）という名字は、日本の古代職能氏族である犬養氏にルーツを持つ、歴史の深い姓です。「犬を飼育し、狩猟や警護に関わる役目」を示す職業姓として成立し、古代の正史にもたびたび登場するなど、確かな史料に裏付けられた由緒が特徴です。
現在では岡山県を中心に全国に広がり、歴史を感じさせる名字としてよく知られています。
犬養姓は、日本の古代社会や職能制度を理解する上でも重要な手がかりとなる名字であり、その歴史的価値は名字研究においても大きな意味を持っています。