「飯利（いいり）」という名字は、日本全国でも珍しい姓のひとつで、古くから地方に根づいた地名や農耕文化と深く関わりを持つ名字として知られています。その語構成からもわかるように、「飯」は稲作や食の恵みを、「利」は繁栄・利益・恩恵を象徴する文字であり、古代日本人の生活観や自然への感謝の心を色濃く映しています。「飯利」姓は主に九州地方や中国地方に分布しており、地名に由来する可能性が高いと考えられています。本記事では、「飯利」という名字の意味、由来、歴史、読み方、分布などを、史料や地名研究をもとに詳しく解説します。
飯利さんの名字の意味について
「飯利」という名字の意味は、構成する漢字から読み解くと、古代日本の農耕文化や社会的価値観を反映していることがわかります。
まず「飯（いい）」という字は「炊いた米」、つまり「食物」や「命の糧」を表します。日本では古来より米が主食であり、豊穣を象徴する存在でした。そのため「飯」を冠する姓には、「稲作に関わる土地」「食の豊かな村」などの意味が込められることが多く、「飯田」「飯尾」「飯塚」などのように地名由来の姓として全国に広がっています。
次に「利（り）」という文字は、「利益」「恩恵」「繁栄」を意味し、「役立つ」「恵まれる」といった前向きな印象を持つ字です。この字が名字に用いられる場合、「恵みのある地」「恩恵を受ける地」「富み栄える家」といった意味が込められることが多くあります。
したがって「飯利」という名字は、「稲作の恵みがある土地」「食に恵まれ繁栄する村」「豊穣をもたらす地」などを意味していると考えられます。漢字の構成上、古代の村落社会で豊かな農業地帯や共同体を象徴する姓であった可能性が高いといえるでしょう。
飯利さんの名字の歴史と由来
「飯利（いいり）」という名字は、古代から中世にかけての地名を起源とする地名姓（じみょうせい）であると考えられます。実際に「飯利」という地名は日本各地で確認されており、特に九州地方および山陰地方にその痕跡が残っています。
なかでも、熊本県や島根県、広島県などの地域には、「飯利（いいり）」という地名、または類似の「飯梨（いいなし）」「飯里（いいさと）」といった地名が存在しており、これらが姓の由来になったと考えられています。地名研究の分野では、「飯利」の「利」が「里（さと）」の転訛（てんか）である可能性も指摘されており、「飯里（いいさと）」が時代とともに音便化して「飯利（いいり）」へと変化した説もあります。
古代日本では、稲作を中心とした村落に「飯」の字を冠する地名が多く、そこに住む豪族や有力農民が地名を姓とすることが一般的でした。「飯利」姓も同様に、稲作地帯の地名に由来する姓として誕生したと考えられます。
江戸時代には、九州地方の庄屋・郷士層に「飯利」姓を名乗る家系が見られ、熊本藩や日向（宮崎県）地方の古文書にも「飯利某」という人物名が確認されています。これらは、その土地の名主や農業指導者的立場にあった家柄である可能性が高く、地域社会において一定の影響力を持っていたと推測されます。
飯利さんの名字の読み方
「飯利」という名字の主な読み方は「いいり」です。この読み方が全国的に最も一般的であり、戸籍上の表記としても広く用いられています。
ただし、漢字の構成上、地域によっては異なる読み方が使われていた可能性もあります。確認されている、あるいは伝承的に存在する読み方には以下のようなものがあります。
- いいり（最も一般的な読み）
- いり（九州地方や山陰地方での略読）
- はんり（まれに古文書などに見られる異読）
「いり」という読み方は、九州地方の方言的な特徴によるもので、語頭の母音が省略される傾向から生じたと考えられます。また、古い地名資料では「飯利郷（いりのごう）」などと記される場合があり、これが後世に「いいり」へと正則化されたとみられます。
いずれにしても、現在では「いいり」と読むのが標準的な発音であり、公的文書や登録名でもこの形が用いられています。
飯利さんの名字の分布や人数
「飯利」姓は日本全国でも珍しい名字に分類され、比較的限られた地域に集中して分布しています。名字由来netや全国電話帳データベースによると、全国での推定人数はおよそ200人から300人程度とされています。
主な分布地域は以下の通りです。
- 熊本県（八代市、人吉市など）
- 大分県（日田市、中津市など）
- 宮崎県（延岡市、児湯郡など）
- 島根県（出雲市、安来市など）
- 広島県（三次市、庄原市など）
この分布から見ると、「飯利」姓は古くから九州地方および中国山地の一帯で用いられていたことがうかがえます。特に熊本県では、「飯利」姓の旧家が複数存在し、江戸時代の村役人や庄屋として地域の行政を担っていた家系も確認されています。
また、明治以降の近代化によって都市部へ移住した家系も多く、現在では東京都や大阪府、神奈川県などの大都市圏にも一定数の「飯利」姓の方が見られます。
興味深いことに、「飯利」姓は九州南部の「飯牟禮（いいむれ）」や「飯盛（いいもり）」といった名字とも語源的に近く、同系統の地名起源姓である可能性が高いといわれています。これらはいずれも「飯＝稲作」「利・牟禮・盛＝恵みや繁栄」を意味し、農耕社会の文化を反映した姓である点で共通しています。
飯利さんの名字についてのまとめ
「飯利（いいり）」という名字は、日本の稲作文化と深く関わる地名由来の姓であり、「飯＝食の恵み」「利＝繁栄・恩恵」という意味から、「豊穣の地」「食に恵まれた村」を象徴する名字です。
歴史的には、熊本県や島根県、広島県などの地名「飯利」「飯里」に由来すると考えられ、江戸時代には地方の庄屋・郷士として地域に根ざした家系が存在していました。読み方は「いいり」が最も一般的で、全国の人数は約200〜300人とされる希少姓です。
地名の由来や分布から見ても、「飯利」姓は自然と人々の生活の調和を象徴する名字といえるでしょう。稲作の実りを尊び、地域社会の繁栄を願う心が込められた「飯利」という姓は、日本人の古くからの価値観を今に伝える貴重な名字のひとつです。
