「赤嶋（あかしま）」という名字は、日本各地で確認される比較的珍しい姓であり、地形や自然現象を由来とする名字の一つです。その字面からも分かるように、「赤」と「嶋（島）」の二文字には古代日本人の自然観や地名形成の特徴が色濃く反映されています。全国的な分布としては九州地方、とくに福岡県・佐賀県・長崎県に多く見られますが、関西や関東にも少数ながら確認されており、古くから地域社会に根付いた姓といえます。本記事では、「赤嶋」という名字の意味、由来、歴史、読み方、分布などを、日本姓氏語源辞典や地名辞典などの資料をもとに詳しく解説します。
赤嶋さんの名字の意味について
「赤嶋」という名字は、「赤」と「嶋（島）」の二つの漢字で構成されています。それぞれの字には自然や地形を表す意味があり、日本の地名や姓で古くから用いられてきました。
まず「赤」は、古代日本では神聖で力強い色として特別な意味を持っていました。赤は「太陽」「火」「血」「生命力」などを象徴し、神社や儀礼においても頻繁に使われる色です。地名として用いられる場合は、鉄分を多く含む赤土や岩肌の色、または夕陽に染まる地形など、自然の色彩を反映したものとされています。例として「赤坂」「赤岩」「赤池」などの地名が全国に存在し、どれも土地の色や質感を表しています。
次に「嶋（島）」は、「川や海に囲まれた陸地」「流れの中に浮かぶ土地」「独立した地域や集落」を意味する地名語です。日本では古代から「嶋（島）」を地名に用いる例が多く、単に海上の島を指すだけでなく、川の中洲や周囲と隔てられた丘陵なども「島」と呼ばれました。
この二つの要素を組み合わせた「赤嶋」は、「赤土の島」または「赤い岩肌を持つ島・丘陵」を意味していると考えられます。自然環境を反映した名前であり、特定の土地の特徴を表す在地姓（地名由来の姓）である可能性が高いです。また、「赤」は単に地質の色だけでなく、神聖な意味を帯びた土地を表す場合もあり、古代の聖地や居住地の名称に由来する可能性も指摘されています。
赤嶋さんの名字の歴史と由来
「赤嶋」という名字は、主に地名を起源とする姓とされています。実際に、日本各地には「赤嶋」「赤島」と書かれる地名が複数存在しており、それぞれが名字の発祥地となったと考えられます。
最も有力な由来地は、福岡県宗像市および福津市周辺にある「赤間」「赤木」「赤間島」などの地名群です。この地域には「赤嶋（赤島）」と呼ばれる島や浜が古くから存在し、『筑前国風土記』にも「赤間嶋」という記述が見られます。宗像地方は古代より海人族（あまべ）の拠点として栄えた地域であり、海上交通の要衝でした。そのため、「赤嶋」は海辺の小島や岬を指した地名から姓として派生した可能性があります。
また、長崎県壱岐・対馬地方にも「赤島」という地名が確認されており、こちらも「赤嶋」姓の発祥地の一つとされています。これらの島は鉄分を多く含む赤土や岩肌を有しており、「赤い島」という地形的特徴から名付けられたことが分かります。江戸時代の地誌『壱岐国名勝志』にも「赤島の地名は赤色の岩に由来する」との記述があります。
一方、本州でも兵庫県淡路島、岡山県笠岡諸島、広島県呉市周辺などに「赤島」や「赤嶋」の地名があり、これらも独立的に「赤嶋」姓の発祥地となったとみられます。つまり、「赤嶋」姓は単一の地域から派生したものではなく、複数の場所で独立的に成立した姓である可能性が高いのです。
文献上、「赤嶋」姓は中世以降に登場します。江戸時代の記録『姓氏家系大辞典』（太田亮著）には、筑前国（現在の福岡県）や肥前国（佐賀・長崎県）に「赤嶋」姓の家が見られると記されており、武士・庄屋・神職などとして地域社会に定着していたことが分かります。
赤嶋さんの名字の読み方（複数の読み方）
「赤嶋」という名字の主な読み方は「あかしま」です。しかし、地域や時代によって若干異なる読み方が存在していたと考えられます。以下に確認されている読み方を挙げます。
- あかしま（最も一般的で現代でも広く使われている読み）
- あかじま（地名としての読み。九州地方で一部使用）
- せきしま（漢音読みに基づく読み。文献上の例あり）
現代の戸籍上では「赤嶋＝あかしま」がほぼ標準的な読み方です。「嶋（島）」は古くから「しま」とも「じま」とも読まれており、特に九州地方では濁音化して「じま」と読むケースも少なくありません。そのため、地域によっては「あかじま」と名乗る家も存在します。
また、古文書や地名記録などでは「赤島」「赤嶋」が混用されており、発音上の差異はほとんどなかったと考えられます。読み方の違いは地元の方言や時代的な言語変化に由来するもので、意味や由来自体に大きな違いはありません。
赤嶋さんの名字の分布や人数
「赤嶋」姓は全国的に見て珍しい部類に入る名字ですが、九州地方を中心に確認されています。特に福岡県・佐賀県・長崎県の沿岸部で多く見られ、古くからの地名や海運文化と深く関係していることがうかがえます。
名字由来netや日本姓氏語源辞典などのデータによると、「赤嶋」姓の全国人数はおよそ700人から900人前後と推定されています。分布の傾向は以下の通りです。
- 福岡県（宗像市、福津市、北九州市など）
- 佐賀県（唐津市、伊万里市など）
- 長崎県（壱岐市、対馬市）
- 熊本県（天草市など）
- 兵庫県（淡路市周辺）
- 広島県（呉市、尾道市など）
- 東京都・神奈川県（近代以降の移住による分布）
このように「赤嶋」姓は主に西日本に集中していますが、明治以降の人口移動により、現在では首都圏や中部地方にも一定数見られるようになりました。特に福岡県宗像地方出身の家系が明治期に関西・関東へ移住したケースが多いとされています。
また、同音異字の「赤島」姓も存在しますが、「赤嶋」姓とは別系統の場合もあり、地域によって表記の揺れが生じています。戸籍制度が整備される以前は、島（嶋）の字が混用されることが一般的でした。
赤嶋さんの名字についてのまとめ
「赤嶋（あかしま）」という名字は、自然や地形を由来とする在地姓のひとつであり、「赤い土の島」「赤土の丘」などの地形的特徴を表しています。古代から中世にかけて地名として使われていた「赤島」「赤嶋」に由来し、特に九州北部（福岡・佐賀・長崎）や瀬戸内沿岸で多く確認されます。
読み方は「あかしま」が一般的で、「あかじま」と読む地域もあります。地名由来の姓であるため、複数の地域で独立的に成立した可能性が高く、同じ「赤嶋」でも家系によってルーツが異なる場合があります。
現在の全国人数はおよそ700〜900人ほどとされ、珍しい姓の部類に入りますが、九州・西日本に根強い伝統を持つ姓です。名字の成り立ちには、古代の地名文化や自然崇拝が息づいており、日本人が自然と共に暮らしてきた歴史を伝える貴重な一例といえるでしょう。
