「居附（いつき）」という名字は、日本全国でもきわめて珍しい姓の一つです。古くから日本では「居（い）」や「附（つく）」といった漢字を用いた名字が見られ、これらは土地に住みつく・定着する・根付くといった意味合いを持ちます。そのため、「居附」という名字もまた、古代・中世の定住地名や居住形態を背景に生まれた姓と考えられます。この名字は、地域社会や土地との結びつきを重視した日本人の暮らしと文化を象徴しており、名字の由来をたどることで古代の生活風景を垣間見ることができます。本記事では、「居附」という名字の意味・起源・読み方・分布について、信頼できる資料をもとに詳しく解説していきます。
居附さんの名字の意味について
「居附」という名字は、「居」と「附」という二つの漢字から構成されています。まず、「居」は「すまう」「いどころ」といった意味を持ち、人が生活の拠点を構えることを示す言葉です。古代の日本では「居所（いどころ）」「居村（いむら）」など、居住地に関する地名や呼称が多く存在しました。「居」はそこに人が住みつく、定着するという意味であり、土地と人との関係を表す字として頻繁に用いられています。
一方の「附」は、「つく」「そえる」「属する」などの意味を持つ漢字です。律令時代以降、「附属」「附村」「附郷」といった言葉で、中心となる村落や郡に隣接して属する小村・枝村を指す場合に使われました。このことから、「附」という字を含む名字は、より大きな集落に隣接する小集落や従属地域に由来することが多いとされています。
したがって、「居附」という名字は、文字通り「住みついた土地」「居住地に付属する場所」あるいは「本村に隣接して居を構えた家」を意味すると考えられます。古代や中世の日本においては、分家や新しい居住地を指す名称として「居附」「居付」などが使われた例があり、家や土地に深く根ざした姓といえるでしょう。
また、「居附」は「居着き」「居付く」という日本語の古形にも通じており、永住・定住を表す言葉として、土地と一体化して暮らした人々の姿を反映しているとも考えられます。
居附さんの名字の歴史と由来
「居附」という名字の成立は、平安時代から鎌倉時代にかけての村落形成期に遡るとみられます。律令制が整備された奈良時代以降、日本では「郷」「里」「附属村（つけむら）」といった地域単位が確立し、住民が自らの土地や集落にちなんで姓を名乗るようになりました。そのなかで、「居附」という姓は、おそらく「主邑（しゅゆう）」に付属する新しい居住地、あるいは分家が形成された地域を示す地名から派生したと考えられます。
古文書には、類似した表記として「居付」「居附村」などが散見されます。特に中世の荘園制下では、本村から分かれた新開地（しんかいち）や分村に「附」の字を用いることが多く、「○○附」「××ノ附」などと表記されました。これらの地名がやがて定住者の姓として使われたと考えられます。
また、江戸時代には「居附」「居付」「居着」などの語が「奉公人がその家に永く仕える」「長年その土地に定着する」という意味でも使われており、職業的・身分的な定着性を示す言葉としても用いられました。そのため、一部の「居附」姓の家系は、地主のもとに長年仕えていた名主層や、郷士・農民層に由来する可能性も指摘されています。
地名としての例は少ないものの、九州地方や中国地方の古い文献には「居附（いづき／いつき）」という小字（こあざ）や小地名が記録されている場合があります。これらが姓の起源地であるとすれば、地方農村社会の中で自然発生的に形成された名字であるといえるでしょう。
居附さんの名字の読み方
「居附」という名字の一般的な読み方は「いつき」です。これは「居（い）」と「附（つき）」を訓読みした形であり、日本語として自然な音の流れです。「居着く（いつく）」という動詞がもつ定住の意味と語感が一致している点も特徴的です。
ただし、地域や時代によっては次のような異読が存在した可能性があります。
- いづき（古い仮名遣いによる読み）
- いっき（「つ」が促音化した発音）
- いづく（九州方言・古方言的読み）
現代においては「いつき」と読む例が最も一般的で、全国の公的記録や戸籍でもこの読みが採用されています。「居附」姓を持つ人の中には、「居付」「居月」「居築」など、表記を簡略化した別表記を用いる家系も存在しますが、これらはいずれも「いつき」と読むことが多いです。
「いつき」という音自体は、日本の人名や地名にも多く見られ、「厳木（いつき／佐賀県）」「斎木（いつき）」などと同様に、古くから日本語として親しまれてきた響きです。
居附さんの名字の分布や人数
「居附」姓は非常に珍しく、全国でも確認例がごく少ない希少姓です。名字データベース（名字由来netなど）によると、日本全国での人数は10人未満とされており、存在する地域も限定的です。全国的に見ても珍姓ランキング上位に入るほどの希少名字です。
現代における主な分布としては、以下の地域が挙げられます。
- 福岡県（筑後・飯塚地域）
- 熊本県（八代・荒尾地域）
- 広島県（庄原市・福山市周辺）
- 京都府・大阪府（明治期の移住・転居による分布）
この分布傾向から、「居附」姓は西日本に起源を持つ名字である可能性が高いと考えられます。特に福岡県や熊本県は、「居」「附」を含む地名や姓が多く、地名語彙の系統上も近いものが存在します。たとえば、熊本県には「居田（いだ）」、福岡県には「附野（つくの）」など類似構造の地名が見られ、これらと同様の命名原理で生まれたと考えられます。
また、明治以降の戸籍制度施行時に、地方の小地名や屋号から正式な姓を届け出た家が多く、「居附」もその一例として位置づけられる可能性があります。現在では首都圏などにも転居者が見られ、希少ながら全国的に数家系が点在しています。
居附さんの名字についてのまとめ
「居附（いつき）」という名字は、日本の古代・中世における「定住」「土地への根付き」を象徴する言葉を由来とした極めて珍しい姓です。「居」は住む、「附」はつく・属するという意味を持ち、両者を合わせることで「土地に居を構えて定着する」「村に付属する居住地」といった概念を表しています。
その由来は、分村や新開地の形成、または奉公・職能を背景にした家系にあると考えられます。読み方は「いつき」が一般的で、「いづき」「いっき」などの古形も確認されます。現在では全国でも10人未満とされる希少姓で、西日本を中心にわずかな家系が伝わっています。
「居附」という名字は、日本人が古来より大切にしてきた「土地への帰属意識」や「定着文化」を象徴するものであり、名乗る人々にとっては、自然や地域と共に生きる姿勢を受け継ぐ貴重な歴史的遺産といえるでしょう。
